近畿大学生物理工学部が贈る、科学の扉を開く特別講座「BOST Science Cafe」
和歌山県紀の川市に拠点を置く近畿大学生物理工学部は、最新の科学研究を一般に公開する恒例の公開講座「BOST Science Cafe」を、令和7年(2025年)6月7日(土)に和歌山県立情報交流センターBig・U(田辺市)で開催します。地域社会への貢献と生涯学習の機会提供を目的としたこの講座は、今年度も和歌山県教育委員会および田辺市教育委員会の後援のもと、二つの魅力的なテーマで参加者の知的好奇心を刺激します。
プログラム①:動物行動の奥深さに迫る「ペアになるための長い道のり」
最初の講演は、生物理工学部遺伝子工学科の宮本裕史教授が登壇し、「ペアになるための長い道のり」と題して、動物たちの行動の根源と進化のメカニズムを紐解きます。動物の行動は、突き詰めれば「食べること」と「子孫を残すこと」の二つに集約されますが、特に子孫を残すための行動は、雌雄間で驚くほど多様な形質と行動が進化してきました。これを「性淘汰」と呼び、雄同士の激しい縄張り争いや、美しいさえずり、複雑な求愛ダンス、そして精緻な巣作りといった行動は、まさにこの性淘汰の賜物なのです。
宮本教授は、それぞれの種が親から教わることなく特定の行動を示す神秘に光を当て、進化の視点から動物行動をどのように理解できるのか、そして分子レベルの出来事が行動にどのような影響を与えるのかを詳細に解説します。参加者は、身近な動物たちの行動が持つ深い意味と、その行動が遺伝子レベルでどのようにプログラムされているのかについて、新たな発見を得られることでしょう。
プログラム②:見えない脅威「本当は怖い虫刺され」の実態
続いての講演は、生物理工学部医用工学科の正木秀幸准教授による「本当は怖い虫刺され~知っていないと大変なことになりますよ~」。かつて、化学療法薬やワクチンの発展により、人類は感染症を克服したかに見えましたが、エボラ出血熱や新型インフルエンザ、そして記憶に新しい新型コロナウイルス感染症のパンデミックなど、新興・再興感染症が今もなお人類を脅かし続けています。
正木准教授は、2014年のデング熱の70年ぶりの国内流行を例に挙げながら、マダニや蚊が媒介するアルボウイルス感染症の恐ろしさとそのメカニズムについて深く掘り下げて解説します。さらに、これらの感染症に対する有効なワクチンや抗体医薬の開発に向けた最新の研究動向についても言及。参加者は、日常に潜む虫刺されの潜在的な危険性と、科学者たちがその脅威にどのように立ち向かっているのかを学ぶことができます。
開催概要と参加方法
今回の公開講座は、令和7年(2025年)6月7日(土)の午後1時より午後4時まで開催されます。受付は午後12時30分に開始。会場は和歌山県立情報交流センターBig・Uの研修室1ですが、遠方の方や会場に来られない方のために、オンラインでの参加も可能です。
対象は一般の方から中高生まで幅広く、対面参加の定員は113名で入場無料。事前申し込みが必要で、先着順となります。対面参加の場合、定員に空きがあれば当日も受け付けますが、オンライン参加の場合は申込完了後に参加URLがメールで送付されます。詳細な情報や申し込みは、和歌山放送の特設WEBサイト(https://kouza.wbs.co.jp/)から確認できます。
公開講座の背景:地域に根差した研究成果の発信
近畿大学生物理工学部は、「人間」「医療」「食」「生活」「環境」「福祉」という多岐にわたるテーマを掲げ、理学・農学・工学・医学を融合させた先進的な教育と研究を推進しています。その研究成果を広く社会に還元するため、平成11年度(1999年度)から公開講座を開始し、これまで3万4千人を超える受講者が科学の知識を深めてきました。
今回の講座を通じて、参加者は最先端の生物科学に触れるだけでなく、研究の面白さや奥深さを実感できるでしょう。ぜひこの機会に、未来を拓く科学の世界を体験してください。
講師プロフィール
宮本裕史(みやもとひろし)教授
所属:生物理工学部遺伝子工学科
学位:博士(理学)
専門分野:分子生物学、進化生物学
研究テーマ:海産無脊椎動物の発生機構や形態、遺伝子情報を分子レベルで分析し、その進化の類推を研究。特に軟体動物や環形動物の高次分類群に焦点を当てる。
正木秀幸(まさきひでゆき)准教授
所属:生物理工学部医用工学科
学位:博士(医学)
専門分野:免疫学、ウイルス学
研究テーマ:蚊が媒介し、高齢者に致死的な脳髄膜炎を引き起こすウエストナイルウイルスの抗原タンパク質を遺伝子組み換え技術で作成し、安全かつ効果的なワクチン開発を進める。また、感染性を消失させるヒトモノクローナル抗体を用いた抗体医薬の開発も手掛ける。他の新興・再興感染症に対するワクチン・抗体医薬の開発にも意欲的に取り組んでいる。